施工事例

エネマネ・オフィスプロジェクト/株式会社峰村電気商会

2021.07.20

エネマネ・オフィス2019/建築家 赤堀忍 一級建築士事務所イトレス&ACD 
                     芝浦工業大学 建築学部建築学科名誉教授(2021年3月退任)
基本概要・計画の経緯
低炭素化社会に向けて、まちの木質化を促進することで、環境面からカーボンの固定化する社会システムを構築することを目的としている。エネマネハウス2013の実証住宅をきっかけに2013年以来、木質化建築に取り込んでいる。これまでの建築がエネルギーを消費するだけのものであったが、これからは建築行為がエネルギーを作り出すことが前提条件として考えていく必要がある。

1. 地方の小規模な建物で、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の可能性と普及を目指す新たなアプローチである。
2. 鉄骨造に一般に普及しているALCとW. ALCを外壁に併用している。W. ALC は外断熱し、外装をガルバリウム鋼板とすることで、優れた環境性能を実現するだけでなく、準耐火構造とすることが出来た。
3. 建築設備に関しては屋根にソーラーパネルを設け、外壁・屋根は基本外断熱で床下断熱とし、開口部はアルミ・木製サッシュに2層Low-e ガラスを用いることで夏季・冬季の消費エネルギー軽減を図る。将来蓄電池を設置し、小規模事務所で独立したエネルギーマネージメントが可能となり、オフグリッドを目指す。
4. このシステムは工期の短縮を図ることで品質管理・人手不足の解消でき、社会への普及が期待できる。
5. 今回は新たな企業のあり方を見据えて、サーバーの設置・システム構成等のネットワーク構築をしている。更に新社屋にて、電力システム研究室と共同で今後1年間電力使用状況のデータをサンプリングし、最終的にはオフグリッドを目指す実験も開始している。

これまでの建築で使用されている木質パネルは特殊解を求めてきているのに対して、今回の試行では一般解を求めている。しかし、標準化=一般解ではない。標準化によって、これまでのパネルがそうであったように単価・工事費の低下を導き、建築に大きな可能性が生まれてくる。材料の閉じた使用では価格は高いままであるし、面白いものは生まれてこない。標準化された材料を非合理性の中にどう取り込んでいくかだ。今回の試行は既に標準化されている材料であるALCとそれに合わせた標準化中の材料W.ALCをどう組み合わせていくかが課題の一つであった。

働き方改革
日本の住環境は必ずしも快適ではない。日本に来る西洋人は家の中がなぜこれほど寒いのかという。これは家の断熱性能に関わる問題だが、同様に地方の労働環境は必ずしも快適ではない。労働の場として意欲を喚起する場所を提供できるかがもう一つの課題であった。
目的はエネマネ・オフィスをつくることで、より良い居住環境・労働環境をつくることだ。都市では様々な発想の仕事場が考案されているが、地方都市ではまだまだ日本的居住環境から抜け出せていない。一部屋が温められていて、そこから出ると部屋の中でも外気温と同じ温度という状況があり、エネルギーの浪費にもつながっている。今回はこれらを解消してより良い労働環境を作り出している。

空間のアパランス
素材、材料、色
1998年の新建築社のJA29で「モダニズムにける空間の浸透性とアパランスとしての素材」を書いている。すでに20年前である。木質化建築を考えるにあたって、このアパランスとしての素材が頭をよぎった。昨今の建築に見られる建築的ジェストは当時に比べて更に大袈裟になっている。過渡的事実、一過性、あるいは最近の言葉を借りればインスタ映えである。
それとは反対に建築的基盤、社会的基礎となるような建築はできないだろうかという思いがある。ピュアでブリュットな基本態である。一見普通の建築のなかに価値・理性を埋め込まれたような様態で存在する。その方法として標準化と非合理性との結合を企ててきた。使用したW.ALCは材木であるが加工してパネル化し、塗装している。既に加工され、一つの材料に近いが、木質素材と考えているが、木という素材に任せるという発想は全くない。またここで使われているALCは事務室の天井を除いて補助的な材料として使用していて、塗装され、空間に現れてくることはない。

空間でのアパランスは構造体・W.ALCと色によって構成されている。ALCとW.ALCは厚さこそ違うが、同寸法で施工方法も同じである。このことは業種間の作業の変化も引き起こすことになる。しかし、その空間に及ぼすアパランスは大きな違いがある。それが今回の試行目的のひとつである。エネマネハウス2015以来、このW.ALCのみで空間を構成することは考えていなかった。何処産、云々という木産地・銘柄崇拝は私にはない。この崇拝が木材の高騰を呼び、外来材を大量に輸入される結果を招いていることも考えるべき、木質建築を考える上では障害になる。

技術的試行・解決方法
近代建築運動の中で求められてきたものは構法の標準化と一品性、固有の表現である。この標準化と非合理性との結合を考えていく上で、一度整理するためにも単純な形態に戻り、過渡的(一時的な表現として)な事実ではなく、構成事実を明らかにする必要があった。建築を支える構造、それを包む表皮、表皮の繋ぎ、建築空間を支える構造は必ずしも構造体ではない。空間を支える、規定する要素であって、場を決定する要素といってもいい。近代建築は内空間が外装として現れた一体としたものであったが、今日ではそれらは分離したものとなっている。建築の表現と機能の分離は顕著である。

ここで使用されているものは十分な規模(5階建)に耐えられ、徹底的に標準化された重量鉄骨と標準化を目指しているW.ALCと広く流通しているALCである。ALCは内断熱で、W.ALCは外断熱としている。鉄骨柱の外面が仮想基準軸面として、開口部も含んで各材料が内側へ外側へと揺れている。これまで使用してきた木質パネルの中で許容範囲の高い。結果的にLe Corbusierのドミノ・システムに戻っている。このシステムの場合、構造体である柱は空間を決める要素にもなっている。最も標準化された鉄骨造は非合理性に対して許容出来るはずだが、2次部材が全て標準化されていると結果的に柔軟な対応は難しい。今回の建築は技術的観点からは過渡的である。既存のモデュールにのった木質パネル・ALCのみで構成されているためであるが、空間を構成する要素として鉄骨造、木質パネルを使用し、Brutな空間をつくり出している。改修工事でよく見られる表皮を剥がされた状態でRC打放しがむき出しにされた方法に近い。もともとある素材をそのまま使っている。改修的新築である。

素材の並列・等価
素材に任せる
 素材にはある力がある。細やかさであったり、硬さであったり、柔らかさといった存在感である。それに対して材料にはそれがない。特に加工された材料にはそれが欠ける。そういった意味では今回は純粋な素材は使用していないが、ALCもW.ALCも鉄骨も加工されてはいるものの素材の利点を十分に備え持っていて、それらで空間を構成している。

意思表示としての色
 上記の素材に加えて色を素材と考えている。空間を構造化している重要な要素と考えている。特に今回使用した沈んだ赤は空間の意思表示としている。鉄鋼柱は既成の錆止めのままであり、それを強調するのではなく、孤立させないために寄り添っているというか、色が意思表示することによって鉄骨柱の持つ工事中という印象を払拭している。

竣工
2018年11月
延床面積
153.81m2
構造
重量鉄骨造 地上1階
外部仕上げ─────────────────

屋上 高分子防水シートt=2、GCシート、超湿板t=6、ネオマホームt=57.5断熱工法(機械式固定)/旭化成ホームズ
外壁 押し出し中空セメント板(ALC)t=60 フッソ樹脂塗装(現場塗装)/旭化成ホームズ、W.ALC t=105、ネオマホームt=50、シート防水、ガリバリウム鋼板立平葺/セキノ興産
CASBE-Sランク相当(2008年版自主認証)
用途
事務所
所在地
長野県千曲市大字新田
W.ALC使用量
12.0422㎥
設計
赤堀忍/一級建築士事務所イトレス&ACD/芝浦工業大学 建築学部建築学科名誉教授(2021年3月退任)
施工
峯村材木店、旭化成ホームズ、旭化成住宅建設、宮田工業、大栄建設、峰村電気商会、Curationer